兵庫県尼崎市の住宅地に建つ住居と園庭です。
住み慣れた土地に女性単身が住むという状況で、住まいの新しい可能性について考えました。隣地の保育園が、住宅地の中にあるため園庭が非常に狭く、園児や保育士の方々が近所の公園へ遊びに出かけるのを見たのが始まりです。その後、施主と保育園を交えて話し合いを重ね「住居の下の園庭」が生まれました。1階は屋外に開放されたピロティを設け、ピロティと敷地の1部は、園児たちが遊ぶ住居の下の園庭となっています。保育園裏庭との間にあるようブロック壁を一部取り除き、園児は道路を介さずに行き来します。夕方、園児らが帰宅した後は住居のための静かな庭になります。住宅という建築は小さくプライベートなものですが、土地の敷地境界線を越えて、この地域に関わる人達が互いに気配を感じる社会性を帯びた場所となっています。
都心で住宅を設計する際、土地の内で良好な環境を得ることに終始するあまり、敷地周囲との境界を強調するような閉鎖的な空間を求められることがあります。この「住居と園庭」では、住人や周辺環境の条件から、周囲を許容する価値観を基に取り組むことで住人も周辺環境も互いに獲得するものがあると考えました。竣工後、園児や送迎に来た保護者から住人へ挨拶があるなど、地縁のある住まいができたと感じています。
敷地は間口が7m奥行が約20mの細長い土地であり、隣地は3階建ての住宅や共同住宅に囲まれているため、住環境と園庭の両方に、明るく風通しの良い空間を生み出せる建築が必要だと考えました。この建築は木造の壁柱による3つの高さのピロティで構成され、前面道路側から奥の園庭に向かうに従い徐々に高くなり、また壁柱の壁量が少なくなることで、より開放的になってゆきます。壁量の多く低いピロティ側が、壁量の少なく高いピロティを支えるようにして全体でその構造を成立させています。高さ関係が住居内に床高さの変化をつくり、リビングからの振り返ると室内と同じように、子供たちの園庭が伺える視点を設けています。また高さのズレが住空間と園庭の両方へ光と風の通りをつくるように意図しています。